IEC61850について調べた~アーキテクチャとプロトコル

投稿者: | 2024年5月26日

何のための規格なのか

IEC61850は、「変電所内におけるインテリジェント電子装置(IED:Intelligent Electronic Device)間の情報交換の標準化」のための国際標準規格として策定された。既に世界で数百箇所の変電所がこの規格に基づいて構築されている。

変電所 (以後、英語でサブステーション: Substation と呼ぶ) では、各回路の電圧電流等を①「計測」し、必要であれば遮断器の開放などの②「保護」を行う。また、遠隔から状態を③「監視制御」する必要もある。

①まず「計測」については、これまではVT (Voltage Transformer: 計器用変成器), CT(Current Transfromer: 計器用変流器) といった計測器からのアナログ信号線が各計測器ごとに出ていて、保護リレーまで引き回されていたので、ものすごい量のケーブルが必要だった。それをすべてイーサネットなどの1本のデジタル配線にまとめられるようにする。

②次に「保護」については、複数の保護リレーの機能を集約し、より高度な整定等が可能なIED (Intelligent Electronic Device: インテリジェント電子装置) を使ってトリップ信号を出す。すでに色々な変電所でIED自体は採用されているが、これを規格統一する。

③最後に「監視制御」については、変電所に存在する各機器のデータを集約し、SCADA (Supervisory Control and Data Acquisition: 監視制御) 装置に伝送したり、本社からそれらを遠隔で監視できたり、といった仕組みを構築する。これまでは各社が独自でシステムを作っていたところを、IEC61850で統一するようにする。

アーキテクチャ

デジタル変電所の構成要素

デジタル変電所は、下図のように3領域に分かれている。上位階層から順に、ステーション、ベイ、プロセスである。ステーションは変電所全体(監視制御)、ベイは変電所の保護機能を実現するIED(保護)、プロセスはデータの計測と収集(計測)だと思えばよい。データ通信路は2つあり、プロセスとベイを接続するのが「プロセスバス」、ベイ同士を繋いでステーションを形成するのが「ステーションバス」である。

デジタル変電所の構成図 [3]

ステーションバス

ステーションバスは変電所全体を接続し、中央管理ベイと個別ベイの間の接続を提供します。ステーションバスは、ベイ内のIED、分散コントローラ、およびヒューマン マシン インターフェイス (HMI) を接続します。また、ベイを相互に接続したり、ゲートウェイ/ゲートウェイルータにベイを接続したりします。多くの場合、接続される数百の IED は、通信パラメータやアプリケーション/目的に基づいて、物理的または論理的にセグメント化されています。

クリティカルではない監視や通信のための比較的低優先度のバスです。

プロセスバス

プロセスバスは、主要な測定および制御機器を IED に接続します。プロセスバスは、変流器 (CT)、計器用変圧器 (PT)、データ収集ユニット (DAU)、統合ユニット (MU) などの開閉所の送信元デバイスからデータを処理して測定、制御および保護についての決定を行う IED とリレーに未処理の電源システム情報 (電圧と電流のサンプル値、装置のステータス) を送ります。

通常、プロセスバスはベイに限定されますが、バスバー保護および差分保護トラフィックは複数のベイにまたがる場合があります。

IED間のタイムクリティカルなデータをやり取りするため、高優先度のバスです。

通信プロトコル

プロトコルの種類

それぞれの機器の役割に応じて以下の3つのプロトコルを使って通信を行う。

MMS
(Manufacturing Messaging Specification)
SCADAと変電所内の機器に利用各種機器の状態取得や設定値の確認、変更、制御コマンドの発行など。TCP/IP上の通信で行われる。IEC61850-8-1で定義。
GOOSE
(Generic Object Oriented Substation Events)
変電所内の機器同士の通信に利用。GOOSEデータはEthernetに直接マルチキャスト送信され、Publisher型の通信となる。高速通信が必要な箇所に使用。IEC61850-8-1で定義。
SV
(Sampled Values)
変電所内の機器のアナログデータをサンプリングによりデジタル化して送信。IEC61850-9-2で定義。
サブステーション内で使用されるプロトコルの種類 [1]

各プロトコルが使われる場所

ステーションバスでは、GOOSE (レイヤ 2 マルチキャスト)、MMS のほか、SNTP、SNMP、FTP な
ど (他には TCP/IP やUDP/IP レイヤ 3 ユニキャスト) が使われる。

プロセスバスでは、SV (レイヤ 2 マルチキャスト) 、GOOSE (レイヤ 2 マルチキャスト) が使われる。MMS (レイヤ 3 ユニキャスト) の場合もある。プロセスバスデバイスを接続するので、重要なトラフィックにリアルタイムのサービス品質を提供することが期待されている。

ステーションプロセスとプロセスバスで MMS、GOOSE、SV が確認される場所 [2]

時刻同期

電圧電流波形の瞬時値を保護に使うことかから、各IEDの時刻は正確に一致していることが求められる。そのため、1つのIDEがマスタクロック源として変電所内の時刻の基準となり、他のIDEはスレーブとしてマスタクロックに同期する。アナログデータのサンプリングに関して記述するIEC61850-9-2中では、時刻同期への要件を以下のように定めている。

  1. 同期には、UCA IEC 61850-9-2 LE規格で指定された1秒間に1つのパルス(1PPS)を使用し、専用の光ファイバで伝送する
  2. 時間源の精度は1マイクロ秒に達する必要がある
  3. システム全体の精度は4マイクロ秒以内に制御する必要がある

参考サイト

  1. IEC 61850(SISCO社製品)|日新システムズ
  2. [pdf]変電所の自動化:新しいデジタル変電所設計ガイド | CISCO
  3. [pdf]高度な保守・運用を実現するデジタル変電所技術, 富士電機技報, Vol.92, No.3, 2019
  4. 電力システム中のMerging Unitについて|テクノロジー研究家 YP

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